B遺言と遺書|寺野善圀がわかりやすく教える相続と遺産

相続と遺産B遺言と遺書について

相続、遺産、遺産分割、協議書、相続人、養子、相続権

 

1 遺言と遺書について

 

まず一般の人は,遺言(一般の人は「ゆいごん」と言っているようですが,法律家は通常「いごん」と言っています。)を残しておいた方が良いと勧めると,遺書と混同して,いかにも自分の余命がなく死に瀕しているかのように誤解されているようです。

 

広辞苑によると,遺書は「死後のために遺した手紙や文書」とあり,遺言は「死にぎわにのこすことば。」とあって,単に書面にするか,口頭でするかの違いのように読めます。しかし,遺言の場合は,その後に「[法]自己の死亡後の財産や身分に関する一定の方式に従った単独の意思表示で,死亡によって効力を生じるもの」とあります。ここで言う遺言は,後者の解説を指します。

 

そうは言いましても,いずれもある程度年を取ってから作るものであると思われるかもしれません。確かに遺言書は大体60歳代以降の方が作成されるのが多いようです。しかし,遺言は,自分の死後残った財産をどの様に分け与えるか,身分関係(認知,祖先祭祀など)をどうするかということを決めて遺しておくものですから,判断力が衰える前に作成しなければなりません。

 

判断力が衰えてからでは作成できません。また若い方でも海外旅行に行かれる方の場合,旅先の事故などを慮って遺言書を作っておられる方がいます。

 

よく耳にすることに一旦遺言書を作成すると内容を変えることができないとか,そうかと言うと一方では毎年作っておかなければならないとか言う人がいますが,それは間違いです。遺言は,遺言書を作成するときの家族関係や社会的な関係などを考慮して,その時の最善の財産分けなどを考えて作成するものですので,当然家族関係や社会関係などが変化すれば,遺言する人の気持ちも変化するのですから,いつでも変更することができます。

 

また一旦遺言書を作成しますと,変更しない限りその遺言書は,遺言した人が亡くなった時に効力が生じます。毎年作成しなければならないとか,何年か経過すると効力がなくなるというものではありません。

 

それでは次にどのような場合に遺言が必要かを検討して見ることにします。

 


家族に苦労をさせたくないので,自分の意思を明確に遺しておく必要

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遺言の必要性

 

よく家には財産はあまりないから遺言なんて必要ないとか,子供らも仲が良いから必要ないと言っておられるのを耳にします。しかし,一般的に遺言は,ないよりあった方がよいようです。例えば遺言がなければ前述のように遺産分割協議書が必要ですし,遺産分割協議ができたとしても,被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍謄本の全てを準備しなければならないなど,遺産相続の手続きが想像以上に煩瑣になるからです。私の公証人としての経験で,ある男性が遺言書の作成を依頼してきました。

 

聞くとその方の子供さんは,長男お一人ということでしたので,特に遺言書を作成しておく必要はないのではないかと助言しました。ところがその方は,「自分も一人っ子であったが,父が遺言書を遺しておいてくれたので相続手続きが簡単に済んだ。だから自分の子供にも苦労させたくないから遺言書を作成しておく。」ということでした。遺言書があれば,相続を原因とする不動産の移転登記や預貯金等の払い戻し,名義変更など遺産相続の手続きが比較的簡便に済むということです。

 

また,数人の子供がいて相続分に差を付けたい場合も考えられます。通常は長男が親の老後の面倒を見ているようですが,そうとは限りません。長男以外の子が面倒を見ている場合も多いのではないかと思われます。その場合遺言書で,面倒を見てくれた子により多くの遺産を遺してあげたいと考えるのが通常でしょう。

 

さらに次のような方もおられました。その方は,配偶者と二人の子供がおられた方で,遺言の内容は,法定相続分どおり,即ち配偶者である妻に2分の1,二人の子供にそれぞれ4分の1ずつというものでした。その様な内容であれば,手続的な面を考慮しなければ,敢えて遺言書は必要がないと考えられます。しかしその方は,「自分が死んだ後,相続人ではない自分の兄弟姉妹が相続に口出ししてくることが目に見えていて妻に苦労をさせたくないので,自分の意思を明確に遺しておく必要があるので遺言書を作成しておくのです。」と言われ,遺言書を作成したことがありました。

 

今まで述べたことは一般的な必要性ですが,次に特に必要な場合について検討することにします。

 

〇配偶者,子供(代襲相続人を含む),親,兄弟姉妹(代襲相続人を含む)のいない方。

 

この場合,相続人が存在しませんので,遺産は国のものになってしまいます。場合によっては特別縁故者と言って被相続人の老後などの面倒を見ていた人が家庭裁判所に申請して遺産の一部を受け取ることができますが,この場合も受け取ることができる遺産は,実際に支出した限度を基準に算出されます。

 

それ以外の遺産は,全て国のものとなります。人は孤立無縁ということはありませんので,推定相続人以外の親族や世話になった知人の方に遺贈するとか,どこかに寄付をする遺言書を作成しておいた方が良いと思います。

 

〇内縁関係のままの方。

 

事実上夫婦でありながら何らかの事情があって婚姻届を提出していない場合,年金などについては,特別な規定で遺族年金を受給することができますが,一般的には内縁関係にある相手の人には相続権がありません。これと同様に何らかの理由で離婚しているものの,その後も同居するなどして,事実上婚姻関係を継続している場合にも相続権は認められません。何がしかの財産を遺してあげたいのなら遺言書は必要不可欠です。

 

〇再婚されている方。

 

離婚あるいは死別した配偶者との間に子供がいて,再婚している場合,遺産分割協議が極めて困難になると考えられます。再婚相手の方との間に子供ができていた場合は,より困難になると考えられます。また,婚姻関係の年数等によって離婚相手と再婚相手との間の財産形成に差があって法定相続ではかえって不公平になり,各相続人の相続割合に差をつける必要がある場合があります。

 

また,前述のように嫡出子と非嫡出子の相続分は平等になりましたが,嫡出子と非嫡出子の間に差をつける必要のある場合は遺言によるしかありません。但し,配偶者や子供の場合,後で述べる遺留分に注意して下さい。

 

〇会社を経営されている方。

 

会社を経営している場合,株式を分散してしまうと,会社経営に支障を来たす結果になってしまうことが考えられます。会社経営の後継者(親族とは限りません。)を決めて,その後継者に株式の全部あるいは会社経営に支障を来たさないように,より多くの株式を承継させて会社経営が困難になる事態を避けるべきです。

 

また,会社の土地,建物が個人所有になっている場合も,当該土地,建物の所有関係をどうするか,例えば会社の後継者の個人所有にするか,会社の所有にするか,あるいは親族の所有にして賃料収入を親族の生活費として遺してあげるかなどが考えられます。

 

なお,相続人以外の人(会社などの法人も含まれます。)に株式や不動産を遺贈した場合,多額の税金が掛かると思われるかもしれませんが,後に述べますように,それは間違いです。遺贈は贈与税の対象ではなく,相続税の対象で優遇されています。

 

〇農地を所有されている方。

 

会社経営と同様,農地を分割してしまうと農業が成り立たなくなることはご存じのとおりです。ただ農地を推定相続人に相続させる場合は,特に問題はありませんが,相続人以外の人に遺贈する場合は,受遺者の資格に一定の制限があります。地域によって条例が異なっていますので農業委員会等に問い合わせて下さい。

 

〇墓地,仏壇等を所有している方

 

墓地を所有しているというのは,単に霊園や地区の墓地にお墓を所有しているというのではなく,不動産の登記簿上で墓地を所有しているということです。霊園や地区の墓地にお墓を所有している場合は,霊園経営者や地区の墓地管理組合等に名義変更の申請をすれば比較的簡便に認められているようですが,墓地を所有している場合は相続を原因とする移転登記をしなければなりません。

 

墓地や仏壇等の承継は,祖先祭祀の承継と言います。これらの物は相続財産ではありません。祖先祭祀の承継については,慣習に従うとされていて,慣習が不明のときは家庭裁判所の審判を受ける必要があります。一般的には長子それも長男が承継するのが慣習と思われます。長男以外の子供等に承継させる必要があると考えられる場合は,遺言で祖先の祭祀承継者を指定しておくことが必要です。


公正証書遺言は,公文書ですので信用性も高いと考えられます

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3 遺言書の方式について

 

遺言書については,民法は自筆遺言,秘密遺言、公正証書遺言の3方式のみとしています。これ以外の例えば録音、録画などによる遺言は認められておらず,いずれも無効となります。

 

自筆遺言は遺言の内容を全て遺言者本人が自筆で記し,日付を記載して、署名押印して遺言書を作成するという方式です。ただ,自筆遺言の方式は厳格に定められており,他人に内容を書いてもらって署名したもの,パソコンなどで印字されたもの,日付に何年何月吉日と記載されたものや押印のないものなどは無効で,遺言書とは認められません。
秘密遺言は,パソコンなどで印字されたものでもかまいませが,遺言者が署名押印した証書を封筒に入れて証書に押印した印と同一の印で封印し、これを公証役場に持参し,公証人及び2名の証人の面前で「自己の遺言書である。」旨申述し,封筒に署名押印して提出した上,公証人及び証人が署名押印して作成するという方式です。

 

公正証書遺言は,遺言者が公証人及び2名の証人の面前で遺言内容を申述し,公証人が遺言内容を記載した証書を作成し,遺言者,証人2名,公証人がそれぞれ署名押印して作成する方式です。
自筆遺言や秘密遺言は,遺言者が亡くなった後,速やかに遺言書を保管している者が家庭裁判所に提出して検認という手続を受けなければなりません。家庭裁判所は,検認期日を指定し,全相続人を呼び出し,その面前で一応方式に則った遺言書が存在すると認定して検認した事実を記載した文書を添付するというものです。

 

公正証書遺言の場合は,検認の手続きは不要です。また,公証人と2名の証人が遺言者の許に出向いて作成することも可能ですし,遺言者が署名押印できない場合でも,公証人が証書に署名押印できない理由を記載して作成することも可能です。なお,成年被後見人でも,医師2名が遺言者に遺言能力があると申述して作成することも可能です。

 

遺言書は,いつでも作成しなおすことができます。この場合,日付の新しい遺言書が有効で,これと内容が矛盾する先の遺言書は,内容が矛盾する部分について無効となります。

 

自筆遺言や秘密遺言は,いずれも1通しか存在しませんので紛失のおそれがありますが,公正証書遺言の場合は,いわゆる原本は,遺言書を作成した公証役場で半永久的に保管され,遺言者には正本,謄本が交付されますので紛失の可能性はないと言ってもよいと思われます。また,公正証書遺言は,公文書ですので信用性も高いと考えられますので,遺言をする場合は,できれば公正証書遺言にしておかれたほうがよいと思います。


遺言と関連して死因贈与契約について述べておきます。

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4 死因贈与契約について

 

例えば特定の不動産を貰う場合,遺言にその旨記載されていればよいのですが,遺言の場合は,それに従った登記ができず,前述のとおり遺言はいつでも書き直すことが可能で,遺言者が翻意すれば当該不動産を取得することができません。

 

このような場合に備えて遺言する者と不動産を貰うことになっている者(受遺者と言います。)が当該不動産について死因贈与契約を締結しておきます。この場合は,不動産を与える者の死亡を原因とする始期付所有権移転仮登記ができます。仮登記に費用は掛かりますが,受遺者としても安心でしょう。

 

なお,この場合の税金も,贈与税ではなく相続税の対象となります。なお,受遺者は,相続人でも構いません。


遺言書や死因贈与契約書作成にあたって遺言執行者を指定しておく必要があります。

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5 遺言執行者について

 

相続の場合,法律は,被相続人が亡くなった場合,それと同時に遺言書どおりの遺産分割がなされ,被相続人から相続人に相続を原因として所有権等の権利関係が移転したとしており,不動産の場合ですと,遺言書などの必要書類を揃えて法務局に提出して申請すれば,そのとおりの登記に応じてもらえます。

 

ところが銀行あるいは証券会社などの金融機関については,遺言書を提出して遺言書どおりに預金の払戻請求をし,又は預貯金や株式の名義変更を請求しても,相続人全員の印を要求してくるのが実情です。これでは遺言書を遺した意味がありません。金融機関等に払戻しや名義変更を応じさせるためには,遺言の執行者を指定しておく必要があるのです。遺言の執行者を指定しておけば,遺言の執行者が請求すれば,金融機関等も応じてくれます。ただ,金融機関等の窓口担当者が遺言書について知識を有していない場合があって,拒否することがありますが,その場合は,上司あるいは顧問弁護士に尋ねてみてもらいたいと言えば大抵は応じてもらえるはずです。

 

遺言書があって遺言執行者も指定されている事案で金融機関が応じなかった場合で,それがため損害が生じたときは,金融機関がその損害をも賠償しなければならないとされた判例もあります。
なお,死因贈与や遺贈の場合は,必ず執行者を指定しておく必要があります。この場合は当然に権利が移転するのではなく,執行して初めて権利が移転すると考えられているからです。

 

遺言の執行者は,弁護士などの専門家である必要はありません。相続人あるいは受遺者でもかまいません。また,1人でも数人でもかまいません。遺言の内容ごとに執行者を指定することもできます。例えば,特定の不動産を遺贈する場合,その項目についての執行者に当該受遺者を指定し,他の不動産の遺言執行者として別な人を指定し,株式や預貯金については,また別な人を指定するということもできます。ただ同一項目について単純に数人の執行者を指定した場合は,当該遺言の執行がその数人の執行者が共同して執行しなければなりません。

 

この場合数人にした理由が単に執行者に指定された人が忙しいために時間が取れないかもしれないことに配慮して,念のために数人にしたというのであれば,それぞれ単独で執行できるという文言を遺言書に入れておけば,数人の執行者がそれぞれ単独で遺言の執行をすることができます。
なお,遺言執行者が遺言者より先に死亡したとか,そもそも執行者の指定がなかった場合は,家庭裁判所に執行者の指定の申し立てをして選任して貰うことになります。

 

遺言の執行でもう一つ注意を要することがあります。それは遺言書で不動産全部あるいは特定の不動産を貰えることになっているとして安心し,いつまでも移転登記をせずに放置していた場合のことです。不動産の場合は,数人の相続人がいましても,相続人であれば誰でも1人で法定相続分どおりの登記申請をすることができるのです。前述のとおり,相続の場合は被相続人が死亡すると,それと同時に所有権も移転する,つまり執行という手続きが不要と考えられており,法務局としては遺言書の存在は関知していませんので,原則通り法定相続されたものとして,法定相続分どおりの移転登記申請に応じているのです。

 

もちろん遺言書があれば,その遺言どおりの登記をすることは可能ですが,その場合法定相続分どおりの移転登記の抹消をしなければなりません。登記申請をした人が応じてくれれば問題はありませんが,法定相続分どおりの登記申請をした相続人が容易く応じてくれることは考えられませんので,その場合は,登記名義人を相手に登記抹消請求の訴訟を提起する必要があるのです。ですから遺言書があるからと思って安心するのではなく,遺言者である被相続人が死亡した場合,できるだけ速やかに移転登記の手続きを採る必要があるのです。


相続人あるいは受遺者が先に亡くなるかもしれない場合に備えて

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6 段階遺言について

 

遺言書を作成したとしましても,場合によっては遺言書で遺産をあげようとしていた相続人あるいは受遺者が遺言者より先に亡くなってしまうことも考えられます。この場合先に亡くなった相続人あるいは受遺者の相続人に相続あるいは遺贈されるものと思ってしまう人もおられますが,そのようにはならず,遺言の当該部分が無効となってしまいます。遺言書を改めて作成しなおせばよいのですが,事前に相続人あるいは受遺者が先に亡くなるかもしれないことを予想して遺言書を作成しておくことも可能です。これが段階遺言をいうものです。

 

例えば,「〇〇〇〇の財産を長男〇〇〇〇に相続させる。」という場合,「長男〇〇〇〇が本遺言の効力発生時に死亡していたときは,同人に相続させるべきであった〇〇〇〇の財産を孫〇〇〇〇に相続させる。」というような文言を追加しておけばよいのです。これは遺贈の場合も同様です。但し,遺贈の場合は,執行者指定についても段階指定しておく必要があります。


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